
子どもがまた同じ忘れ物をした。
家族に何度もお願いしているのに、また同じことができていない。
そんなとき、「なんで何回言っても分からないの?」「もう少しちゃんとしてよ」と、つい相手を責めたくなることはないでしょうか。
もちろん、約束やルールを守ってほしいと思うこと自体は悪いことではありません。ただ、人を責めることばかりに意識が向くと、問題の原因が見えにくくなり、同じことを繰り返してしまうことがあります。
この記事では、「なぜ私たちは人の失敗を責めてしまうのか」「許すことと放置することは何が違うのか」「人ではなく仕組みに目を向けるとはどういうことか」を、心理学の考え方から分かりやすく解説します。
人の失敗を「その人の性格のせい」にしてしまう心理
誰かが失敗したとき、私たちはその原因を「その人自身」に求めやすい傾向があります。
例えば、家族がゴミ出しを忘れたとします。
「今日は朝からバタバタしていたのかな」と考えるより、「だらしない」「何回言っても忘れる人だ」と、その人の性格の問題として考えてしまうことがあります。
心理学では、他人の行動を見たときに、その場の状況よりも性格や人柄を重視して判断してしまう傾向を「対応バイアス」と呼びます。
もちろん、すべての失敗が環境のせいというわけではありません。また、このような考え方の傾向には文化や状況による違いもあります。
それでも、「この人はだらしない」と人物そのものを評価する前に、「この失敗が起こりやすい状況はなかっただろうか?」と考えるだけで、見えるものは変わります。
ここがポイント
「どうしてこの人はできないの?」と考えるだけでなく、「どういう状況で、この行動が起きたのだろう?」と考える。人と行動を少し分けて見ることが、責めすぎないための第一歩です。
日本の「迷惑をかけない」と、インドの「人を許す」という考え方
日本では、子どもの頃から「人に迷惑をかけてはいけない」と教えられることが多くあります。
周りの人に配慮すること、自分勝手な行動を控えること、誰かを困らせないようにすること。人と一緒に生活していくうえで、とても大切な考え方です。
一方、日本ではインドの子育て観を紹介する言葉として、次のような表現が紹介されることがあります。
「あなたも人に迷惑をかけて生きているのだから、人のことも許してあげなさい」
「なるほど」と感じる方も多いのではないでしょうか。
ただし、これは「インドではすべての家庭でこのように教えている」と断定するものではありません。ここでは、日本とインドの文化の優劣を比べるのではなく、人との関わり方を考えるためのひとつの対比として考えてみます。
人に迷惑をかけないように努力する。
それと同時に、「自分も知らないところで、誰かに助けてもらったり、迷惑をかけたりしながら生きている」と考える。
心理学には、自分だけが特別に失敗しているわけではなく、誰もが不完全さや失敗を抱えていると捉える「共通の人間性(common humanity)」という考え方があります。これは、自分を必要以上に責めない「セルフ・コンパッション」を構成する大切な視点のひとつです。
「自分だって完璧ではない」と思えることは、自分を甘やかすことではありません。
むしろ、自分の不完全さを認められるからこそ、他人の失敗に対しても「そんなこともある」と少し余白を持って見られることがあります。
心理学でいう「許す」は、我慢することでも放置することでもない
ここで大切なのが、「許す」と「放置する」は違うということです。
心理学の研究では、許しは、傷つけられた相手に対する復讐したい気持ちや避けたい気持ちが少しずつ弱まり、より建設的な反応へ変化していく過程として研究されてきました。
つまり、「許す」というのは、起きたことをなかったことにすることではありません。
「相手は悪くなかった」と考える必要もありませんし、「何をされても我慢する」という意味でもありません。
例えば、家族が大切な約束を忘れてしまった場合。
「仕方ないよ。全部大丈夫」と済ませることだけが許しではありません。
「忘れられて悲しかった」という自分の気持ちは伝える。そのうえで、相手をいつまでも責め続けるのではなく、「次はどうすれば忘れにくくなるだろう?」と考える。
これもひとつの建設的な向き合い方です。
許すことと責任をなくすことは別です
大切なのは、「人を責めない=何でも許してそのままにする」と考えないことです。起きたことを認め、必要なら謝る、修復する、次の方法を考える。責任を取ることと、人そのものを責め続けることは別の問題です。
注意してほしいポイント
暴力や虐待、ハラスメントなど、自分や家族の安全が脅かされる状況まで「相手を許しましょう」と我慢する必要はありません。そのような場合は、まず安全を守ることや、必要な支援につながることを優先してください。
「誰が悪い?」より「どうしたら次は起きにくくなる?」と考える
問題が起きたとき、人間はどうしても「誰が悪いのか」を決めたくなります。
責任の所在を確認することが必要な場面もあります。しかし、再発を防ぐことが目的なら、「人」だけを見ても十分ではありません。
例えば、次のように考えてみます。
- よく忘れる → 目につく場所にメモを置く、スマートフォンに予定を入れる
- 家族に予定が伝わらない → 口頭だけでなく、共有カレンダーにも残す
- 子どもが片づけない → 「片づけなさい」と言うだけでなく、戻しやすい場所に収納を作る
- 同じ確認漏れが起きる → 最後に確認する項目を決めておく
こうした工夫は、特別なものではありません。
「頑張って気をつける」だけに頼らず、自然と望ましい行動を取りやすい環境を作るという考え方です。
例えば、玄関に鍵を忘れる人に「絶対に忘れないで」と毎日注意するより、玄関の目につく場所に鍵置きを作った方がうまくいくことがあります。
これは、その人を信用していないからではありません。
人間は誰でも、疲れていたり、急いでいたり、別のことを考えていたりすれば忘れます。だからこそ、人の注意力や記憶力だけに頼らない工夫を考えるのです。
「責める」と「問題を指摘する」は同じではない
人を責めないようにしようとすると、「じゃあ、何も言わずに我慢しないといけないの?」と思う方もいるかもしれません。
そうではありません。
問題を伝えることと、相手そのものを否定することは分けて考えることができます。
例えば、
「あなたは本当にだらしないね」
と言われると、その人自身を否定されたように感じやすくなります。
一方、
「今回は○○ができていなかったね。次に忘れにくくするには、どうしたらいいと思う?」
と伝えれば、問題となった行動に焦点を当てることができます。
子どもに対しても同じです。
「片づけられない子だね」と人を評価するより、「今日はおもちゃが出たままだね。どこなら戻しやすいかな?」と一緒に考える。
言っている内容は似ているようでも、受け取る側には大きな違いがあります。
人を責めるコミュニケーションは、「自分が悪い人間だ」と感じさせやすくなります。
一方、行動に焦点を当てれば、「ここを変えればいい」と考えやすくなります。
それでも家族や子どものことは「仕組み」だけでは解決できない
ここまで、「人ではなく仕組みに目を向ける」とお伝えしてきました。
しかし実際には、家族や子どものことをすべて仕組みで解決するのは難しいものです。
家族にはそれぞれ考え方があります。
その日の気分や体調もありますし、年齢や性格、価値観も違います。
いくら工夫しても、また同じことが起きることもあります。
そんなときに思い出したいのが、先ほどの言葉です。
「私も別の形で、誰かに迷惑をかけながら生きている」
問題そのものが、すぐに解決するわけではありません。
相手の行動が急に変わるわけでもありません。
それでも、「自分も完璧ではない」と思い出すことで、相手を責める気持ちが少し減り、違う伝え方を選べることがあります。
セルフ・コンパッションと身近な人間関係について扱った研究では、自分に対して思いやりを持つことは、家族や友人、パートナーとの関係における建設的な対処や関係性のあり方とも関連していることが報告されています。
大切なのは、「許さなければいけない」と自分に言い聞かせることではありません。
責める以外の選択肢もあると知っておくことです。
誰かを責めたくなったときに考えてみたい4つのこと
「また同じことをしている」と感じたら、すぐに答えを出そうとしなくても構いません。
まずは次の4つを順番に考えてみてください。
-
① 何が起きた?
「だらしない」ではなく、「約束の時間を忘れた」のように、起きた事実を確認します。 -
② どんな状況だった?
急いでいた、分かりにくかった、伝え方が曖昧だったなど、行動が起きた背景を考えます。 -
③ 何を修復する必要がある?
謝る、片づける、もう一度連絡するなど、今できることを考えます。 -
④ 次に起きにくくするには?
メモ、置き場所、確認方法、伝え方など、「気をつける」以外の方法を探します。
これだけで、すべての問題が解決するわけではありません。
ただ、「誰が悪い?」だけで終わらず、「何を変えられる?」という方向へ意識を動かしやすくなります。
人を責めすぎない。でも、問題は放っておかない
日本的な「人に迷惑をかけないようにする姿勢」には、人への配慮があります。
そして、「自分も誰かに迷惑をかけながら生きているのだから、人のことも許してあげよう」という考え方には、人間の不完全さを受け入れるやさしさがあります。
どちらか片方だけではありません。
人に迷惑をかけないように努力する。失敗した人を必要以上に責めない。そして、同じ問題が起きるなら仕組みを見直す。
この3つを一緒に持つことが大切なのではないでしょうか。
そして、家族のことや子どものことなど、どうしても仕組みだけでは解決できない場面では、
「私も別の形で、誰かに迷惑をかけながら生きている」
と考えてみる。
問題そのものはすぐに解決しなくても、相手を見る気持ちが少しやさしくなるかもしれません。
人間関係のストレスが続くと、眠りにくさや疲労感、身体のこわばりなど、心だけでなく身体の調子にも影響を感じることがあります。
身体の不調を考えるときも、筋肉や関節だけでなく、睡眠、生活環境、家庭や仕事での負担、ストレスなどを切り離さずに見ることが大切です。
当院でも、身体のお悩みについてご相談いただいた際には、痛む場所だけでなく、必要に応じて日常生活や睡眠、ストレスなどの背景もお聞きしながら、現在の状態を一緒に整理することを大切にしています。
参考情報
- Gilbert DT, Malone PS. The correspondence bias. Psychological Bulletin. 1995;117(1):21-38. DOI: 10.1037/0033-2909.117.1.21
PubMed - McCullough ME, Rachal KC, Sandage SJ, et al. Interpersonal forgiving in close relationships: II. Theoretical elaboration and measurement. Journal of Personality and Social Psychology. 1998;75(6):1586-1603. DOI: 10.1037/0022-3514.75.6.1586
PubMed - Lathren CR, Rao SS, Park J, Bluth K. Self-Compassion and Current Close Interpersonal Relationships: A Scoping Literature Review. Mindfulness. 2021;12(5):1078-1093. DOI: 10.1007/s12671-020-01566-5
PubMed - Riek BM, Mania EW. The antecedents and consequences of interpersonal forgiveness: A meta-analytic review. Personal Relationships. 2012;19(2):304-325. DOI: 10.1111/j.1475-6811.2011.01363.x
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